今回のテーマは、「老齢基礎年金・老齢厚生年金」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年1月26日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年1月26日実施)【第1問】
【第1問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問51》~《問53》)に答えなさい。
《設 例》
X株式会社(以下、「X社」という)の役員であるAさん(63歳)は、10年前に結婚した妻Bさん(61歳)との2人暮らしである。Aさんは、60歳を過ぎてしばらく経ち、公的年金の受給額について関心を持つようになった。現在、役員として比較的高額の給与を得ていることから、在職による年金の支給停止や繰下げ支給の仕組みについて知りたいと思っている。
また、X社では多くのパートタイム労働者を雇用しており、Aさんは、パートタイ
ム労働者の社会保険の取扱いについて改めて確認しておきたいと思っている。
そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。
Aさんとその家族に関する資料は、以下のとおりである。
〈Aさんとその家族に関する資料〉
(1) Aさん(本人)
・1961年10月8日生まれ
・公的年金の加入歴
1981年10月から1984年3月までの大学生であった期間(30月)は国民年金に任
意加入していない。
1984年4月から2009年6月まで厚生年金保険の被保険者である。
2009年7月から2011年6月まで国民年金の第1号被保険者であり、この間(24
月)は申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納はしていない)。
2011年7月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
※過去に厚生年金基金の加入期間はない。
・全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
(2) Bさん(妻)
・1963年8月21日生まれ
・公的年金の加入歴
1982年4月から2023年7月まで厚生年金保険の被保険者である。
・全国健康保険協会管掌健康保険の被扶養者である。
※妻Bさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関
係にあるものとする。
※Aさんおよび妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障
害等級に該当する障害の状態にないものとする。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問51》 Mさんは、Aさんに対して、パートタイム労働者の社会保険の取扱いについて説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑤に入る最も適切な数値を解答用紙に記入しなさい。
〈社会保険の適用要件〉
Ⅰ 「パートタイム労働者が社会保険(健康保険および厚生年金保険)の被保険者資格を取得する基準について、次の2つの基準(いわゆる『4分の3基準』)が定められており、原則として、両方に当てはまる場合は被保険者となります。
(1) 1週間の所定労働時間がその事業所の通常の労働者(正社員)の4分の3以上であること。
(2) 1カ月間の所定労働日数がその事業所の通常の労働者(正社員)の4分の3以上であること。
また、『4分の3基準』を満たさなくても、特定適用事業所に使用されるパートタイム労働者は、原則として、次の3つの基準すべてに当てはまる場合は被保険者となります。
(ⅰ) 1週間の所定労働時間が( ① )時間以上であること。
(ⅱ) 賃金が月額( ② )円以上であること。
(ⅲ) 学生でないこと。
ただし、( ③ )カ月以内の期間を定めて使用される者は、その定めた期間を超えて使用されることが見込まれない場合、原則として被保険者とされません。なお、特定適用事業所とは、従業員数(『4分の3基準』を満たすパートタイム労働者を含む厚生年金保険の被保険者数)が( ④ )人を超える企業等をいいます」
〈社会保険の保険料負担者〉
Ⅱ 「社会保険(健康保険および厚生年金保険)の保険料は、原則として、被保険者である労働者と事業主が折半して負担することとされており、当該労働者のうち、40歳以上( ⑤ )歳未満である者については、原則として、介護保険の保険料についても労働者と事業主が折半して負担することになります。なお、厚生年金保険の被保険者を使用する事業主については、児童手当等の支給に要する費用に充当される子ども・子育て拠出金が徴収されます」
《問52》 Aさんが65歳に達した時点で退職して再就職しない場合、Aさんが原則として65歳から受給することができる公的年金の老齢給付について、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、年金額の端数処理は、円未満を四捨五入すること。
なお、計算にあたっては、《設例》の〈Aさんとその家族に関する資料〉および下記の〈条件〉に基づき、年金額は、2024年度価額に基づいて計算するものとする。
① 老齢基礎年金の年金額はいくらか。
② 老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 228月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 258月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
(65歳到達時点、2024年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 28万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 54万円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 経過的加算額

(5) 加給年金額
40万8,100円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
《問53》 Mさんは、Aさんに対して、Aさんが65歳以後もX社に勤務した場合の公的年金の
受給について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑥に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈在職老齢年金〉
Ⅰ 「65歳以上の厚生年金保険の被保険者に支給される老齢厚生年金は、その受給権者の老齢厚生年金の報酬比例部分の額に基づく基本月額と総報酬月額相当額との合計額が( ① )万円(支給停止調整額、2024年度価額)を超える場合、報酬比例部分の額の一部または全部が支給停止となります。総報酬月額相当額とは、受給権者である被保険者のその月の標準報酬月額に、その月以前1年間の( ② )額の総額を12で除して得た額を加えた額です。仮に、Aさんの65歳以後の総報酬月額相当額を59万円、基本月額を11万円とした場合、支給停止額は月額で( ③ )万円となります。
なお、老齢厚生年金を受け取っている65歳以上70歳未満の者が厚生年金保険の被保険者である場合、『在職定時改定』により、毎年( ④ )月分から年金額が改定されます」
〈老齢給付の繰下げ支給〉
Ⅱ 「Aさんが希望すれば、66歳以後、老齢基礎年金の繰下げ支給の申出をすることができます。仮に、Aさんが、68歳0カ月で老齢基礎年金の繰下げ支給の申出をした場合、年金額の増額率は( ⑤ )%となります。
なお、Aさんが、66歳以後に老齢基礎年金の請求手続をする場合、繰下げ支給ではなく、遡及して年金を受け取ることを選択することもできます。ただし、年金給付を受ける権利は、その支給事由が生じた日から( ⑥ )年を経過したときは、時効によって消滅することとされており、仮に、Aさんが73歳0カ月で老齢基礎年金の請求手続をし、遡及して年金を受け取る場合、□□□歳0カ月で繰下げ支給の申出があったものとみなした増額率により増額された年金額の( ⑥ )年分が一括して支給されることになります。
また、老齢厚生年金についても、繰下げ支給の申出をすることや遡及して年金を受け取ることを選択することができますが、在職老齢年金の仕組みにより支給停止となった部分については、繰下げによる増額の対象とならず、また、遡及して支給を受けることもできません」
一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>【第4問】(2025年1月26日実施)
正解
《問51》
① 20(時間) ② 88,000(円) ③ 2(カ月) ④ 50(人)⑤ 65(歳)
《問52》
① 744,600(円)② 1,310,753(円)
《問53》
① 50(万円) ② 標準賞与(額) ③ 10(万円) ④ 10(月)⑤ 25.2(%) ⑥ 5(年)
《問51》
パートタイム労働者が社会保険に加入するためには、以下の 5つの条件をすべて満たす必要がある。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・雇用期間が2ヶ月を超える見込み
・学生でないこと
・勤務先の企業規模が従業員51人以上
① 20(時間) ② 88,000(円) ③ 2(カ月) ④ 50(人)⑤ 65(歳)
《問52》
①
令和6年度
68,000円×12=816,000円
480-(30+24)月=426月
816,000円×$\dfrac{426+24\times \dfrac{1}{2}}{480}$=744,600円
基礎年金への影響(全額免除・追納なし)
・受給資格期間には算入される
→ 年金を受け取るための「加入期間」としてカウントされる。
・年金額には一部のみ反映される
→ 全額免除期間は、保険料を納付した場合の年金額の「2分の1」が反映される。
全額免除期間:24月 → 12月分のみ反映なら
480-30-24+12もしくは
480-30-12(12月は反映しない)
とすべきである。
②
280,000円×$\frac{7.125}{1,000} $×228月+540,000円×$\frac{5.481}{1000}×258月$ + 1,701円×480月-816,000円×$\frac{426月}{480月}$
454,860円+763,612.92円+(816,480-724,200)円
1,218,472.92+92,280=1,310,752.92=1,310,753円(円未満を四捨五入)
Aさん(本人)
1961年10月8日生まれ
Bさん(妻)
1963年8月21日生まれ
加給年金額について
Bさんは、Aさんが65歳のとき、63歳で65歳未満の配偶者ではあるが、
Bさんには63歳から特別支給の老齢厚生年金が支給されるので、加給年金は支給されない。
配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上または共済組合等の加入期間を除いた期間が40歳(女性の場合は35歳)以降15年以上の場合に限る)、退職共済年金(組合員期間20年以上)を受け取る権利があるとき、または障害年金を受けられる間は、配偶者加給年金額は支給停止される。
1,701 円×480 月-816,000 円×$\frac{426月}{480月}$=92,280 円
被保険者期間は486月であるが、最大で480月となる。
また、①で正しく426月と計算できないと、こちらの計算にも影響する。
《問53》
〈在職老齢年金〉
2024年度の在職老齢年金(65歳以上)の支給停止額の計算式は以下の通りである。
計算式(65歳以上・2024年度)
$\text{支給停止額} = \frac{(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 50万円)}{2}$
(Aさんのケース)
基本月額:11万円
総報酬月額相当額:59万円
合計:70万円
基準額:50万円
超過額:70万円 − 50万円 = 20万円
支給停止額:20万円 ÷ 2 = 10万円
支給停止額は月額で「10万円」です。
老齢厚生年金を受け取っている65歳以上70歳未満の方が厚生年金保険の被保険者である場合、
在職定時改定により、毎年9月1日時点で被保険者であることを確認し、翌月の「10月分」から年金額が改定される。
〈老齢給付の繰下げ支給〉
繰下げ期間:65歳0か月 → 68歳0か月 = 36か月
増額率:36×0.7%=25.2%
時効による消滅
年金給付を受ける権利は、支給事由が生じた日(=65歳到達日)から5年を経過すると、時効により消滅する(国民年金法第16条など)。
遡及請求とみなし繰下げ
Aさんが73歳0カ月で老齢基礎年金の請求をし、遡及して受給する場合、時効により最大5年分までしか遡れない。
そのため、請求時点から5年前の68歳0カ月に繰下げ支給の申出があったものとみなされ、68歳0カ月時点の繰下げ増額率(25.2%)が適用される。
一括支給される年金
この場合、増額された年金額の5年分が一括して支給される。
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