今回のテーマは、「課税長期譲渡所得金額・建ぺい率・容積率」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年5月25日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年5月25日実施)【第4問】
【第4問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問61》~《問62》)に答えなさい。
《設 例》
甲土地の借地権者であるAさんは、甲土地上にある自宅で妻と2人で暮らしている。
Aさんが自宅の建替えについて検討していたところ、甲土地の貸主(地主)であるBさんから、甲土地を乙土地と丙土地に分割して、乙土地部分をAさんが取得し、丙土地部分をBさんが取得するように借地権と所有権(底地)を交換したいとの提案を受けた。Aさんは、借地権と所有権(底地)を交換した場合の自宅の建替えについて検討することにした。
甲土地および交換後の乙土地、丙土地の概要は、以下のとおりである。

・甲土地は252㎡の長方形の土地であり、交換後の乙土地は136.5㎡、丙土地は115.5㎡の長方形の土地である。
・交換後の乙土地のうち、第一種住居地域に属する部分は105㎡、第一種低層住居専用地域に属する部分は31.5㎡である。
・幅員3mの公道は、建築基準法第42条第2項により特定行政庁の指定を受けた道路である。3m公道の道路中心線は、当該道路の中心部分にある。また、3m公道の甲土地の反対側は宅地であり、がけ地や川等ではない。
・交換後の乙土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地ではない。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問61》 Aさんが、下記の〈条件〉で借地権と所有権(底地)を交換し、「固定資産の交換の
場合の譲渡所得の特例」の適用を受けた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくら
か。

《問62》 交換後の乙土地に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算
過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。
一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>【第4問】(2025年5月25日実施)改題・抜粋
正解
《問61》① 1,120,000(円)② 227,500(円)
《問62》① 88(㎡) ② 270(㎡)
それでは、問題を検討していこう。
《問61》固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例
(条件)
(交換譲渡資産)
・交換譲渡資産 : 借地権(旧借地法による借地権)
※2012年10月に相続(単純承認)により取得
・交換譲渡資産の取得費 : 不明
・交換譲渡資産の時価 : 2,400万円(交換時)
・交換費用(仲介手数料等): 80万円(譲渡と取得の費用区分は不明)
〈交換取得資産〉
・交換取得資産 : 所有権(底地)
・交換取得資産の時価 : 2,280万円(交換時)
〈交換差金〉
・AさんがBさんから受領した交換差金 : 120万円
(各数値の整理)
交換差金:1,200,000円
借地権の時価:24,000,000円
概算取得費:24,000,000円 × 5% = 1,200,000円
交換費用(仲介手数料等):800,000円(譲渡と取得の区分不明 → 50%ずつ按分)
→ 譲渡費用として按分:800,000円 × 50% = 400,000円
→ 合計取得費+譲渡費用:1,200,000円 + 400,000円 = 1,600,000円
按分係数:分子は、「交換差金」、分母は「交換取得資産の時価+交換差金」
① 課税長期譲渡所得金額
1,200,000 円-(24,000,000 円×5%+800,000 円×50%)×$\frac{1,200,000 円}{ 22,800,000円+1,200,000 円}$
1,200,000 円-(1,600,000円×0.05)
=1,120,000 円
〈答〉 ① 1,120,000(円)
② 所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
1,120,000 円×15%=168,000 円
168,000 円×2.1%=3,528 円
168,000 円+3,528 円=171,500 円(100 円未満切捨て)
1,120,000 円×5%=56,000 円
171,500 円+56,000 円=227,500 円
〈答〉 ② 227,500(円)
② 所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
税目 | 税率 | 税額(円) |
所得税 | 15% | 168,000円 |
復興特別所得税 | 所得税の2.1% | 3,528円 |
住民税 | 5% | 56,000円 |
《問62》
①建蔽率の上限となる建築面積
建蔽率=$\frac{建築面積}{敷地面積}$
(条件整理)
乙土地は136.5㎡
・交換後の乙土地のうち、第一種住居地域に属する部分は105㎡、第一種低層住居専用地域に属する部分は31.5㎡である。
・交換後の乙土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地ではない。
・第一種住居地域に属する部分をA、第一種低層住居専用地域に属する部分をBとする。
建築基準法では、道路幅が4m未満の場合、道路の中心線から2m後退して建物を建てる必要がある(セットバック)。
接している道路は3mなので、セットバック部分がある。
すなわち中心線から0.5mずつ後退する必要がある。
A:準防火地域
10m×10m=100㎡
準耐火建築物を建築するので、10%加算
B:防火規制なし
3m×10m =30㎡
準耐火建築物を建築するので、10%加算
したがって、
A 100㎡ ×(60%+10%) = 70㎡
B 30㎡ ×(50%+10%)=18㎡
A +B =88㎡
②容積率の上限となる延べ面積
6m公道に接している。
第一種住居地域に属する部分をA、第一種低層住居専用地域に属する部分をBとする。
用途地域ごとに計算する。
(A) 指定容積率:300%
前面道路の幅員による容積率制限$\frac{4}{10}$
6m×0.4=240%
延べ面積=敷地面積×指定容積率(%)
∴100㎡×240%=240㎡
(B )指定容積率:100%
前面道路の幅員による容積率制限$\frac{4}{10}$
6m×0.4=240%
∴30㎡ ×100% =30㎡
240㎡+30㎡ =270㎡
(まとめ)
建蔽率の上限となる建築面積を計算する上で、セットバックと容積率の緩和は要チェック項目である。
セットバックの対象となるのは、実際に接している幅員4m未満の道路(本問の場合は3m)である。
容積率の制限は、以下の2つのうち小さい方が適用される。
・都市計画で定められた指定容積率
・前面道路の幅員 × 0.4(住居系地域の場合)
複数の道路に接している場合
幅員が異なる場合は、広い方の道路を基準にすることができる。
(おさらい)
以下は、容積率の基準を6m道路(幅員)で計算し、セットバックは3m道路に対して行った場合の延べ面積の計算を詳細にしたもの(正解と同じ)
A部分(第一種住居地域)
元の敷地面積:105㎡
接道幅(3m道路):10m
セットバック面積 0.5m × 10m = 5㎡
セットバック後の敷地面積:100㎡
容積率制限(6m道路):6m × 0.4 = 240%(指定容積率300%より小さいため適用)
延べ面積:
100㎡ × 240% = 240㎡
B部分(第一種低層住居専用地域)
元の敷地面積:31.5㎡
接道幅(3m道路):3m
セットバック面積:0.5m × 3m = 1.5㎡
セットバック後の敷地面積:30㎡
容積率制限(6m道路):6m × 0.4 = 240%
指定容積率:100%(こちらを適用)
延べ面積:
30㎡ × 100% = 30㎡
合計延べ面積
240㎡ + 30㎡ = 270㎡
このように、容積率の基準を6m道路で計算することで、合計延べ面積は270㎡となる。
容積率の基準となる道路の選定が重要となる。
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