FP1級の過去問を解こう(2024年5月)「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」

FP

今回のテーマは、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」である。

それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年5月26日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。

ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年5月26日実施)【第5問】

【第5問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問63》~《問65》)に答えなさい。
《設 例》
個人で不動産賃貸業を営むAさん(77歳)は、長男Cさん家族とともに二世帯住宅に居住している。当該二世帯住宅は、Aさんが長男Cさん(45歳)と建築費を折半してAさんが所有する土地上に建築したもので、Aさんと長男Cさんの共有持分はそれぞれ2分の1である。長女Dさん(39歳)は、他県で生活しており戻ってくる予定はないことから、Aさんは長男Cさんに自宅と賃貸アパートを継がせたいと考えている。
Aさんに関する資料は、以下のとおりである。

※自宅および賃貸アパートの敷地は、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の
計算の特例」適用前の金額である。
※Aさんと長男Cさんの間で地代の授受はなく、自宅(建物)は区分所有登記をしていない。
※問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。


《問63》 仮に、Aさんが現時点(2024年5月26日)において死亡し、《設例》の〈Aさんに関する資料〉に基づき、相続税の課税価格の計算上、相続税の課税価格の合計額が最
も小さくなるように「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適
用を受ける場合、本特例により減額される金額を求めなさい(計算過程の記載は不要)。
〈答〉は万円単位とすること。
なお、自宅の敷地は特定居住用宅地等、賃貸アパートの敷地は貸付事業用宅地等に
該当するものとする。
《問64》 仮に、Aさんが現時点(2024年5月26日)において死亡し、相続税の課税価格の合計額が1億7,000万円であって、長女Dさんが現預金3,000万円を相続により取得し、
代償分割により長男Cさんから現金1,600万円を受け取った場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。
① 相続税の総額はいくらか。
② 長女Dさんの納付すべき相続税額はいくらか。

《問65》 遺留分および相続税の延納に関する以下の文章の空欄①~⑦に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。
〈遺留分〉
Ⅰ 「遺留分とは、相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に留保するものです。仮に、Aさんの相続が開始し、遺留分を算定するための財産の価額が1億8,000万円である場合、長女Dさんの遺留分の額は( ① )万円となります。この遺留分を算定するための財産の価額には、被相続人が相続人に対して生前に行った贈与については、原則として、特別受益に該当する贈与で、かつ、相続開始前( ② )年以内にされたものの価額が算入されます。
なお、遺留分権利者の遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始等があったことを知った時から( ③ )年間行使しないとき、または、相続開始の時から10年を経過したときに消滅します。また、遺留分権利者は、被相続人の生前に( ④ )の許可を受けることにより遺留分の放棄をすることができます」
〈相続税の延納〉
Ⅱ 「相続税の納付方法は、原則として、金銭一括納付ですが、相続税額が10万円を超え、かつ、金銭で納付することを困難とする事由がある場合、その納付を困難とする金額を限度として延納を申請することができます。延納をする場合、原則として担保を提供する必要がありますが、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が( ⑤ )年以下であれば、担保を提供する必要はありません。
相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が50%以上( ⑥ )%未満の場合、動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で10年であり、不動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で15年です。相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が( ⑥ )%以上の場合、動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で10年であり、不動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で20年です。
なお、相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が50%以上であっても、延納税額が150万円未満(( ⑥ )%以上の場合は200万円未満)であるときは、延納期間は、延納税額を( ⑦ )万円で除して得た数に相当する年数が限度となります」
〈ファイナンシャル・プランニング技能検定〉

《問63》〈答〉 2,600(万円)
《問64》
① 相続税の総額 〈答〉 ① 2,440(万円)
② 長女Dさんの納付すべき相続税額 〈答〉 ② 732(万円)
《問65》
〈答〉 ① 4,500(万円) ② 10(年) ③ 1(年間) ④ 家庭裁判所
⑤ 3(年) ⑥ 75(%) ⑦ 10(万円)

《問63》

区分内容限度面積減額割合
特定居住用宅地等被相続人の自宅として使われていた土地330㎡80%
特定事業用宅地等相続人の事業(貸付事業を除く)に使われていた土地400㎡80%
貸付事業用宅地等被相続人が賃貸などに使っていた土地200㎡50%

(問題の整理)
自宅敷地(特定居住用宅地等)     264㎡ 3,000万円 
賃貸アパート敷地(貸付事業用宅地等) 574㎡ 7,000万円 借地権割合60% 借家権割合30% 賃借割合:100%
賃貸アパート敷地の相続税評価額=自用地価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

7,000万円×(1-60%×30%×100%)
7,000万円×(1-0.6×0.3×1)
7,000万円×0.82=5,740万円
※%はいったん小数値に戻して計算する。

特定居住用宅地等(330㎡まで80%減額)と特定事業用宅地等(400㎡まで80%減額)は、完全併用でき、これらを優先的に適用する。これらと貸付事業用宅地等は完全併用できないため適用面積の調整が必要となる。

貸付事業用宅地等の限度面積=200 −(特定事業用宅地等の面積×$\frac{200}{400}$+特定居住用宅地等の面積×$\frac{200}{330}$

なお、今回のケースは、特定居住用宅地等を優先的に適用した方が減額される額は大きい。(確認)
なぜなら、

自宅敷地     264㎡ 3,000万円 →3,000万円÷264㎡=11.36万円/㎡
賃貸アパート敷地 574㎡ 5,740万円 →5,740万円÷574㎡=10万円/㎡

㎡あたりの単価が高い。

貸付事業用宅地等の限度面積 = 200 − 特定居住用宅地等の面積×(200÷330))
200-264×$\frac{200}{330}$
200-160=40㎡

特定定居住用宅地等:264㎡
貸付事業用宅地等:40㎡

特定定居住用宅地等は330㎡までが80%減額される。
330㎡>264㎡なので、
減額分=3,000万円×80%=2,400万円①
貸付事業用宅地等は200㎡までが50%減額される。

200㎡>40㎡だが、全体で574㎡なので按分が必要となる。
減額分=5,740万円×(40㎡÷574㎡)×50%=200万円②
①+②=2,600万円

 (答え)2,600(万円)

(解法のポイント)

  • 特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等は併用するためには面積調整が必要となる。
  • 特定居住用宅地等を優先的に適用する。(㎡あたりの単価を計算)
  • 貸付事業用宅地等の評価額を忘れずに計算する。

(補足)
借地権割合・借家権割合・賃借割合について

 借地権割合(しゃくちけんわりあい)
定義:土地の所有者以外の者(借地人)が、その土地を借りて使用する権利(借地権)の価値を、土地の評価額に対してどれだけ占めるかを示す割合。
特徴:地域や用途によって異なる(30%〜90%程度が一般的)
路線価図などで確認可能
相続税評価や譲渡時の課税に影響

借家権割合(しゃくやけんわりあい)
 定義:建物の所有者以外の者(借家人)が、その建物を借りて住む権利(借家権)の価値を、建物の評価額に対してどれだけ占めるかを示す割合。
特徴:一般的には 30% とされる(全国一律)

賃貸物件の評価減に使われる
借家権があることで、建物の評価額は下がる

 賃借割合(ちんしゃくわりあい)
 定義:対象となる土地や建物のうち、実際に賃貸されている部分の割合。
 特徴:100%賃貸なら「1.0」、半分なら「0.5」
賃貸割合が高いほど、評価減の効果が大きくなる

相続税評価額の減額計算に使用

貸家建付地とは
「貸家建付地」とは、他人に貸している家屋(貸家)が建っている土地のことである。
具体的には以下のような条件が満たされている必要がある。

  • 土地上に貸家があること
  • 貸家が継続的に他人に貸し付けられていること
  • 貸家の敷地がその貸家とともに貸し付けられていること
  • 本問の賃貸アパート敷地は、この貸家建付地に該当する。

貸家建付地の評価額は、以下のように減額される。
 自用地価額 × {1 −(借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)}

《問64》
(問題の整理)
預貯金:3,000万円
自宅(建物):1,000万円
自宅(敷地):3,000万円
賃貸アパート(建物):5,000万円
賃貸アパート(敷地):5,740万円

相続人:Cさん、Dさん
相続税の課税価格の合計額が1億7,000万円
長女Dさんが現預金3,000万円を相続により取得した
代償分割により長男Cさんから現金1,600万円を受け取っている。

① 相続税の総額
3,000 万円+(600 万円×2 人)=4,200 万円 (控除額)
1 億 7,000 万円-4,200 万円=1 億 2,800 万円
1 億 2,800 万円×1/2 ×30%-700 万円=1,220 万円 
1 億 2,800 万円×1/2 ×30%-700 万円=1,220 万円 
1,220 万円+1,220 万円=2,440 万円

〈答〉 ① 2,440(万円)

② 長女Dさんの納付すべき相続税額
生命保険の死亡保険金を受け取る際、受取人が相続人の場合は、一定額まで非課税となる
「生命保険金の非課税枠」が適用される。
この非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算される。

1,500 万円-(500 万円×2 人)=500 万円
3,000 万円+1,600 万円(代償分割による)+500 万円(生命保険の死亡保険金)=5,100 万円
2,440 万円×5,100 万円/1億 7,000 万円 =732 万円 

〈答〉 ② 732(万円)

《問65》
〈遺留分〉
Ⅰ 「遺留分とは、相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に留保するものです。仮に、Aさんの相続が開始し、遺留分を算定するための財産の価額が1億8,000万円である場合、長女Dさんの遺留分の額は(① 4,500 )万円となります。

この遺留分を算定するための財産の価額には、被相続人が相続人に対して生前に行った贈与については、原則として、特別受益に該当する贈与で、かつ、相続開始前( ② 10 )年以内にされたものの価額が算入されます。

なお、遺留分権利者の遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始等があったことを知った時から( ③ 1 )年間行使しないとき、または、相続開始の時から10年を経過したときに消滅します。

また、遺留分権利者は、被相続人の生前に( ④ 家庭裁判所 )の許可を受けることにより遺留分の放棄をすることができます」

〈相続税の延納〉
Ⅱ 「相続税の納付方法は、原則として、金銭一括納付ですが、相続税額が10万円を超え、かつ、金銭で納付することを困難とする事由がある場合、その納付を困難とする金額を限度として延納を申請することができます。

延納をする場合、原則として担保を提供する必要がありますが、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が( ⑤ 3 )年以下であれば、担保を提供する必要はありません。

相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が50%以上( ⑥ 75 )%未満の場合、動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で10年であり、不動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で15年です。

相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が(⑥ 75 )%以上の場合、動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で10年であり、不動産等の価額に対応する部分の延納税額の延納期間は最長で20年です。

なお、相続財産の価額のうち不動産等の価額の占める割合が50%以上であっても、延納税額が150万円未満( ⑥ 75 )%以上の場合は200万円未満)であるときは、延納期間は、延納税額を( ⑦ 10 )万円で除して得た数に相当する年数が限度となります」


(遺留分)
遺留分の基本概要
対象者(遺留分権利者):
配偶者
直系卑属(子、孫など)
直系尊属(父母、祖父母など)
※兄弟姉妹には遺留分はありません 

遺留分の割合:
相続人が直系尊属のみ → 相続財産の 1/3
それ以外(配偶者や子などがいる場合) → 相続財産の 1/2
(民法1042条) 

計算方法:
各相続人の遺留分 = 総体的遺留分 × 法定相続分
長女Dさんの遺留分の額
1億8,000万円×1/2×1/2=4,500万円

コメント

タイトルとURLをコピーしました