今回のテーマは、「インタレスト・カバレッジ・レシオ・新NISA制度」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年5月26日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
【第2問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問54》~《問56》)に答えなさい。
《設 例》
Aさん(43歳)は、資産形成を目的として上場株式と投資信託への投資を行うことを検討している。Aさんは、上場株式については同業種のX社とY社に興味を持っており、投資対象としてふさわしいかX社とY社の財務データを比較してみたいと考えている。また、上場株式や投資信託への投資にあたり、2024年1月から始まったNISAを利用したいと考えている。
そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。

※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問54》 《設例》の〈X社とY社の財務データ等〉に基づいて、Mさんが、Aさんに対して説明した以下の文章の空欄①~④に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、計算結果は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入し、小数点以下第2位までを解答すること。また、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
「X社とY社の財務データについて比較検討すると、売上高はY社がX社の約1.38倍ですが、総資産経常利益率ではX社の値が約( ① )%、Y社の値が約□□□%であり、X社の資産効率のほうがよいといえます。総資産経常利益率を、売上高経常利益率と( ② )率の2指標に分解して比較すると、前者についてはX社の値が約13.25%、Y社の値が3.40%、後者についてはX社の値が約0.88回、Y社の値が約1.22回であることから、X社のほうが売上高に対する経常的な利益の割合、いわゆる利幅がより高いことがその要因だとわかります。
また、株主への利益還元の度合いを測る指標である( ③ )で比較すると、X社の値が約□□□%であるのに対してY社の値が約( ④ )%であり、Y社のほうが株主への利益還元の度合いが高いといえます。なお、企業活動において、外部から資金調達を行わずに内部留保を再投資して実現できる成長率をサスティナブル成長率と呼び、自己資本利益率が一定である場合、( ③ )が低いほうがサスティナブル成長率は高くなります」
《問55》 《設例》の〈X社とY社の財務データ等〉に基づいて、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入し、小数点
以下第2位までを解答すること。
① X社の使用総資本事業利益率はいくらか。
② Y社のインタレスト・カバレッジ・レシオはいくらか。
《問56》 Mさんは、Aさんに対して、2024年1月から始まったNISAについて説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑦に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、空欄⑦に入る最も適切な語句は、下記の〈空欄⑦の選択肢〉の
なかから選び、その記号を解答用紙に記入しなさい。また、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
「NISA口座は、『つみたて投資枠』と『成長投資枠』の2つから構成されています。
つみたて投資枠で投資することができる金額は年間( ① )万円まで、成長投資枠で投資することができる金額は年間240万円までで、両者を併用することで年間□□□万円まで投資を行うことが可能です。ただし、年間投資枠のほかに1,800万円(うち成長投資枠は□□□万円)の非課税保有限度額が設定されており、これを超過するような投資は行うことができません。仮に、ある年の非課税保有額が成長投資枠のY社株式900万円のみであるときに、そのNISA口座でX社株式を150万円分購入し、その翌年にY社株式を簿価残高で100万円分売却した場合、Y社株式を売却した年に成長投資枠で新たに購入することができる金額の上限は( ② )万円となります。
NISA口座を開設するためには、証券会社等でNISA口座に関する約款の交付・説明を
受けて、『非課税口座開設届出書』を提出する必要がありますが、その年の1月1日において( ③ )歳以上の者でなければ開設することはできません。なお、NISA口座で保有する上場株式や投資信託の配当金や分配金を非課税とするためには、証券会社で配当金や分配金を受領する( ④ )方式を選択する必要があります。
NISA口座を開設した金融機関を変更する場合、変更したい年分の前年の□□□月□□□日から変更したい年分の属する年の( ⑤ )までに、変更前の金融機関に『金融商品取引業者等変更届出書』を提出して『勘定廃止通知書』の交付を受け、変更しようとする金融機関に、その『勘定廃止通知書』および『非課税口座開設届出書』を提出します。ただし、変更したい年分の属する年の( ⑥ )以降、変更前の金融機関のNISA口座で買付けがあった場合には、その年分については金融機関を変更することはできません。なお、金融機関を変更する場合、変更前の金融機関のNISA口座で保有している上場株式や投資信託は、変更後の金融機関の( ⑦ )」〈空欄⑦の選択肢〉
イ.NISA口座に移管することはできず、売却しなければなりません
ロ.NISA口座に移管することはできませんが、引き続き譲渡益等は非課税となります
ハ.NISA口座に移管されます
ニ.特定口座に移管されます
《問54》
〈答〉 ① 11.71(%) ② 総資産回転(率) ③ 配当性向 ④ 26.97(%)
《問55》
〈答〉 ① 12.24(%) 〈答〉 ② 19.25(倍)
《問56》
〈答〉 ① 120(万円) ② 150(万円) ③ 18(歳)
④ 株式数比例配分(方式) ⑤ 9月30 日 ⑥ 1月1日 ⑦ ロ
《問54》
「X社とY社の財務データについて比較検討すると、売上高はY社がX社の約1.38倍ですが、総資産経常利益率ではX社の値が約( ① 11.71)%、Y社の値が約□□□%であり、X社の資産効率のほうがよいといえます。総資産経常利益率を、売上高経常利益率と( ②総資産回転 )率の2指標に分解して比較すると、前者についてはX社の値が約13.25%、Y社の値が3.40%、後者についてはX社の値が約0.88回、Y社の値が約1.22回であることから、X社のほうが売上高に対する経常的な利益の割合、いわゆる利幅がより高いことがその要因だとわかります。
また、株主への利益還元の度合いを測る指標である( ③配当性向 )で比較すると、X社の値が約□□□%であるのに対してY社の値が約( ④ 26.97)%であり、Y社のほうが株主への利益還元の度合いが高いといえます。なお、企業活動において、外部から資金調達を行わずに内部留保を再投資して実現できる成長率をサスティナブル成長率と呼び、自己資本利益率が一定である場合、( ③配当性向 )が低いほうがサスティナブル成長率は高くなります」
(解説)
総資産経常利益率(ROA):企業の収益性を測る指標で、Return on Assetsの略である。
総資産に対する経常利益の割合を示し、企業の経営効率を評価する上で重要な指標となる。
計算方法:
ROAは、経常利益を総資産で割って100を掛けることで算出される。
ROA=$\frac{経常利益}{総資産}$×100
X社:$\frac{288,000}{2,460,000}$×100=11.71
Y社:$\frac{102,000}{2,466,000}$×100=4.136
総資産経常利益率(ROA)の分解
総資産経常利益率(ROA)は、企業が持つ総資産をどれだけ効率的に活用して経常利益を上げているかを示す指標である。
このROAは、以下の2つの指標に分解できる。
1. 売上高経常利益率:
売上高に対する経常利益の割合を示す指標で、企業の収益性を表す。
計算式は「経常利益÷売上高×100」である。
売上高経常利益率=$\frac{経常利益}{売上高}×100$
X社:288,000÷2174,000×100=13.25%
Y社:102,000÷3,000,000×100=3.4%
2. 総資産回転率:
総資産(総資本)がどれだけ効率的に売上高を生み出しているかを示す指標で、資産の運用効率を表す。
計算式は「売上高÷総資産」である。
総資産回転率=$\frac{売上高}{総資産}$
X社:$\frac{2,174,000}{2,460,000}$=0.88回
Y社:$\frac{3,000,000}{2,466,000}$=1.22回
配当性向
配当性向とは、企業が稼いだ利益のうち、どれだけを配当金として株主に還元しているかの割合を示す指標である。企業の利益に対する配当金の割合を表し、株主への利益還元状況や、企業が利益をどのように活用しているかを判断する材料として用いられる。
配当性向(%)=($\frac{配当金総額}{当期純利益}$)×100
又は、
配当性向(%)=($\frac{1株当たり配当額}{1株当たり当期純利益}$)×100
X社:$\frac{49,000}{232,000}$×100=21.12%
Y社:$\frac{24,000}{89,000}$×100=26.97%
配当性向が高い場合:
企業が稼いだ利益の多くを株主に還元していることを意味し、株主還元に積極的な姿勢を示している。
配当性向が低い場合:
企業が利益を内部留保し、将来の投資や事業拡大に充当する方針を示唆している。
サスティナブル成長率
サスティナブル成長率 = 自己資本利益率(ROE) × 内部留保率
内部留保率 = (1 – 配当性向)
自己資本利益率(ROE)
株主資本(自己資本)に対する当期純利益の割合を示し、企業の収益性や経営効率を評価するために用いられる。
計算式:
ROE (%) = ($\frac{当期純利益}{ 自己資本}$) × 100
《問55》
①X社の使用総資本事業利益率を求める
使用総資本事業利益率=$\frac{事業利益}{総資産}$
事業利益とは
営業利益に、受取利息や配当金などの金融収益を加えたもの$\frac{(180,000+17,000+104,000)}{2,460,000}$×100
=4\frac{301,000}{2,460,000}$×100=12.235=12.24%
②Y社のインタレスト・カバレッジ・レシオを求める
インタレストカバレッジレシオ
= $\frac{(営業利益 + 受取利息 + 受取配当金)}{ (支払利息 + 割引料)}$
= $\frac{(48,000+8,000+21,000)}{(3,000+1,000)}$
=$\frac{77,000}{4,000}$=19.25(倍)
《問56》
「NISA口座は、『つみたて投資枠』と『成長投資枠』の2つから構成されています。つみたて投資枠で投資することができる金額は年間( ① 120)万円まで、成長投資枠で投資することができる金額は年間240万円までで、両者を併用することで年間□□□万円まで投資を行うことが可能です。ただし、年間投資枠のほかに1,800万円(うち成長投資枠は□□□万円)の非課税保有限度額が設定されており、これを超過するような投資は行うことができません。仮に、ある年の非課税保有額が成長投資枠のY社株式900万円のみであるときに、そのNISA口座でX社株式を150万円分購入し、その翌年にY社株式を簿価残高で100万円分売却した場合、Y社株式を売却した年に成長投資枠で新たに購入することができる金額の上限は( ②150 )万円となります。
NISA口座を開設するためには、証券会社等でNISA口座に関する約款の交付・説明を受けて、『非課税口座開設届出書』を提出する必要がありますが、その年の1月1日において( ③18 )歳以上の者でなければ開設することはできません。なお、NISA口座で保有する上場株式や投資信託の配当金や分配金を非課税とするためには、証券会社で配当金や分配金を受領する( ④株式数比例配分 )方式を選択する必要があります。
NISA口座を開設した金融機関を変更する場合、変更したい年分の前年の□□□月□□□日から変更したい年分の属する年の( ⑤9月30日 )までに、変更前の金融機関に『金融商品取引業者等変更届出書』を提出して『勘定廃止通知書』の交付を受け、変更しようとする金融機関に、その『勘定廃止通知書』および『非課税口座開設届出書』を提出します。ただし、変更したい年分の属する年の( ⑥1月1日 )以降、変更前の金融機関のNISA口座で買付けがあった場合には、その年分については金融機関を変更することはできません。なお、金融機関を変更する場合、変更前の金融機関のNISA口座で保有している上場株式や投資信託は、変更後の金融機関の( ⑦NISA口座に移管することはできませんが、引き続き譲渡益等は非課税となります )」
2024年から開始された新しいNISA制度は、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠から構成されており、非課税での資産形成を支援する制度である。
① 年間のつみたて投資枠の上限
・正解:120万円
・ポイント:2024年からの新NISA制度では、つみたて投資枠の年間投資上限は120万円と定められている。
② 成長投資枠で新たに購入できる金額の上限
・正解:150万円
・ポイント:非課税保有額が900万円の状態で150万円分を購入すると、合計1,050万円となる。その翌年に100万円分を売却すると、その分の非課税枠が復活し、年間投資枠240万円のうち残り150万円まで新規購入が可能である。
空欄②の補足説明
- 成長投資枠の非課税保有限度額は 1,200万円。
- ある年に 900万円分の株式を保有し、さらに 150万円分を購入すると、合計 1,050万円。
- 翌年に 100万円分を売却すると、その分の枠が復活する。
- その年の年間投資枠(240万円)のうち、すでに150万円使っているので、残り 90万円。
- ただし、非課税保有限度額の空きが250万円あるため、最大150万円まで新規購入可能となる。
「非課税保有限度額の空き」と「年間投資枠」のうち小さい方が、その年に新規購入できる上限になる。
では、なぜ「150万円まで新規購入可能」となるのか?
この説明の混乱の原因は、「年間投資枠の残りが90万円なのに、150万円まで購入可能」としている点にある。
以下のように整理できる。
考え方(翌年の場合)
- 非課税保有限度額の空き:250万円(1,200万 − 950万)
- 年間投資枠の上限:240万円
- その年にすでに使った額:90万円(仮定)
- → 年間投資枠の残り:150万円
このとき、非課税枠の空き(250万円)> 年間投資枠の残り(150万円)なので、
新規購入可能額は「150万円」になる。
逆に、もし非課税枠の空きが少なければ?
たとえば、非課税枠の空きが 100万円しかなければ:
- 年間投資枠の残りが150万円あっても、
- 非課税枠の空きが100万円しかないので、購入できるのは100万円までとなる。
結論
「非課税保有限度額の空き」と「年間投資枠の残り」のうち、
小さい方がその年に新規購入できる上限額となる。
したがって、ポイントの「150万円まで新規購入可能」という記述は、
年間投資枠の残りが150万円で、非課税枠の空きがそれ以上あるという前提に基づいているのである。
③ NISA口座開設に必要な年齢
・正解:18歳
・ポイント:NISA口座は、その年の1月1日時点で18歳以上の者が開設可能である。
④ 配当金等を非課税で受け取るための方式
・正解:株式数比例配分方式
・ポイント:NISA口座で配当金や分配金を非課税で受け取るには、証券会社で「株式数比例配分方式」を選択する必要がある。
⑤ 金融機関変更の期限
・正解:9月30日
・ポイント:NISA口座の金融機関を変更する場合、前年10月1日から変更年の9月30日までに手続きを行う必要がある。
⑥ 金融機関変更ができなくなる条件
・正解:1月1日
・ポイント:変更年の1月1日以降に買付けがあると、その年は金融機関の変更ができない。
⑦ 金融機関変更時の保有資産の扱い
・正解:ロ(NISA口座に移管することはできないが、引き続き譲渡益等は非課税となる)
・ポイント:NISA口座の金融機関を変更しても、変更前の金融機関で保有していた資産は移管できないが、そのまま非課税で保有し続けることが可能である。
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