今回のテーマは、「事業所得の青色申告」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年9月8日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年9月8日実施)【第3問】
【第3問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問57》~《問59》)に答えなさい。
《設 例》
Aさんは、2024年2月末に、31年11カ月勤務した会社を早期退職し、2024年3月1日から個人事業主として妻Bさんと小売業を営んでいる。
Aさんは、2024年中に地震により自宅の一部に損害を受け、地震保険から受け取った保険金と預貯金を修理費用に充てており、雑損控除の適用を受けたいと考えている。
Aさんの家族および2024年分の収入等に関する資料は、以下のとおりである。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん (54歳): 青色申告者
妻Bさん(50歳): 2024年中に青色事業専従者として給与収入120万円を得ている。
〈Aさんの2024年分の収入等に関する資料〉
Ⅰ.事業所得に関する事項
① 売上高、仕入高等

※1 商品棚卸高は、先入先出法による評価額は660万円、移動平均法による評価額は650万円、最終仕入原価法による評価額は670万円である。なお、Aさんは、棚卸資産の評価方法について、税務上の届出はしていない。
※2 上記の必要経費は適正に計上されている。なお、当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②は含まれていない。
② 取得した減価償却資産(上記①の必要経費には含まれていない)

Ⅱ.退職所得に関する事項
会社から支給を受けた退職金に係る収入金額 : 3,000万円
※退職金の受給時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している。
Ⅲ.給与所得に関する事項
会社から支給を受けた給与に係る収入金額 : 160万円
Ⅳ.地震による損害額と保険金等に関する事項
損害金額
: 450万円(下記の災害関連支出は含まれていない)
災害関連支出の金額 : 140万円
地震保険からの保険金 : 200万円
※妻Bさんは、Aさんと同居し、生計を一にしている。
※Aさんと妻Bさんは、いずれも障害者および特別障害者には該当しない。
※Aさんと妻Bさんの年齢は、いずれも2024年12月31日現在のものである。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問57》 所得税に関する以下の文章の空欄①~④に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈雑損控除〉
Ⅰ 「雑損控除は、納税者が有する一定の資産または納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で総所得金額等が48万円以下である者が有する一定の資産について、災害または( ① )もしくは横領による損失が生じた場合に、納税者のその年分の総所得金額等から当該損失の金額に基づいて計算した一定の金額を控除することができる所得控除です。所得控除は、まず雑損控除から行うこととされ、雑損控除の金額が総所得金額等から控除しきれない場合は、その控除しきれない金額を、翌年以後、最長で( ② )年間(特定非常災害により生じた損失の金額に係るものについては、最長で□□□年間)にわたり、各年分の総所得金額等から繰越控除することができます」
〈青色事業専従者控除〉
Ⅱ 「青色事業専従者とは、原則として、青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族のうち、その年の12月31日時点の年齢が( ③ )歳以上であって、その年を通じて( ④ )カ月を超える期間について専らその青色申告者の営む不動産所得、事業所得または山林所得を生ずべき事業に従事する者をいいます。青色申告者が、所定の期限までに納税地の所轄税務署長に提出した『青色事業専従者給与に関する届出書』に記載されている金額の範囲内において、青色事業専従者に給与を支払った場合、その給与の額で労務の対価として相当であると認められるものは、その青色申告者の営む事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額または山林所得の金額の計算上、必要経費に算入することができます」
《問58》 《設例》の〈Aさんの2024年分の収入等に関する資料〉に基づいて、Aさんの2024年分の①および②の金額をそれぞれ求めなさい。いずれも〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。
なお、Aさんは、正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記帳し、それに基づき作成した貸借対照表および損益計算書等を確定申告書に添付して、確定申告期限内に提出し、かつ、e-Taxによる申告(電子申告)を行うものとし、事業所得の金額の計算上、青色申告特別控除額を控除すること。また、特に記載のない限り、2024年分の所得税が最も少なくなる課税方法を選択するものとする。
① 退職所得の金額
② 事業所得の金額
《問59》 前問《問58》を踏まえ、Aさんの2024年分の所得税および復興特別所得税の申告納税額を計算した下記の表の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。空欄⑥については100円未満を切り捨てること。
なお、Aさんは、雑損控除の適用を受けるものとし、計算にあたっては、次頁の〈資料〉を用いるものとする。また、記載のない事項については考慮しないものとし、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。


《問57》〈答〉 ① 盗難 ② 3(年間) ③ 15(歳) ④ 6(カ月)
《問58》〈答〉 ① 6,800,000(円)〈答〉 ② 13,030,000(円)
《問59》〈答〉 ① 14,080,000(円) ② 1,812,000(円) ③ 480,000(円)
④ 1,922,400(円) ⑤ 38,220(円) ⑥ 1,743,800(円)
《問57》
〈雑損控除〉
Ⅰ 「雑損控除は、納税者が有する一定の資産または納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で総所得金額等が48万円以下である者が有する一定の資産について、災害または(① 盗難)もしくは横領による損失が生じた場合に、納税者のその年分の総所得金額等から当該損失の金額に基づいて計算した一定の金額を控除することができる所得控除です。所得控除は、まず雑損控除から行うこととされ、雑損控除の金額が総所得金額等から控除しきれない場合は、その控除しきれない金額を、翌年以後、最長で(② 3)年間(特定非常災害により生じた損失の金額に係るものについては、最長で5年間)にわたり、各年分の総所得金額等から繰越控除することができます」
(参考)No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
〈青色事業専従者控除〉
Ⅱ 「青色事業専従者とは、原則として、青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族のうち、その年の12月31日時点の年齢が(③ 15)歳以上であって、その年を通じて(④ 6)カ月を超える期間について専らその青色申告者の営む不動産所得、事業所得または山林所得を生ずべき事業に従事する者をいいます」
なお、「青色事業専従者控除」という表現は、制度上存在しない用語であり、誤解を招く可能性がある。正しくは「青色事業専従者給与」とすべきであり、これは必要経費として事業所得から差し引くもので、「控除」という用語が使われる「青色申告特別控除」などとは性質が異なる。
《問58》
①退職所得の金額
30,000,000 円-(8,000,000 円+700,000 円×(32 年-20 年))=13,600,000 円
13,600,000 円×1/2 =6,800,000 円
(参考)
退職所得=(退職金の収入金額−退職所得控除額)× 1/2
(退職所得控除額)
勤続20年まで:40万円 × 20年 = 800万円
勤続20年超:70万円 × (32年 − 20年) = 70万円 × 12年 = 840万円
合計控除額:800万円 + 840万円 = 1,640万円
②事業所得の金額
(前提知識)
棚卸資産の評価方法について税務署に届出をしない場合、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」が適用される。
→本問では、最終仕入原価法による評価額は670万円
減価償却資産の減価償却方法について、税務上の届出はしていない。
→法定の償却方法は一般的には旧定額法または定額法である。
(機械設備)
年間償却費
2,400,000×0.125=300,000円
初年度償却費:
300,000円×10/12 =250,000円
パソコン:取得価額 80,000円 →「一括費用処理(10万円未満)」
※(一括費用処理)使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額が10万円未満であるもの
(売上高 )9,200万円
(仕入高) 7,275万円
年末の商品棚卸高:670万円(最終仕入原価法)
売上原価=期首棚卸高+仕入高ー期末棚卸高
期首棚卸高は0円(2024年2月末に、31年11カ月勤務した会社を早期退職し、2024年3月1日から個人事業主として小売業を営んでいる。)→新規事業
72,750,000 円-6,700,000 円=66,050,000 円(売上原価)
2,400,000 円×0.125×10 月/12 月 =250,000 円 (機械設備の減価償却費)
11,940,000円(必要経費)
92,000,000 円-(66,050,000 円+11,940,000 円+250,000 円+80,000 円)-650,000 円(青色申告特別控除)
=13,030,000 円
(参考)
【青色申告特別控除】
青色申告者で不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む者が、その事業に係る帳簿書類を備え付けて一切の取引内容を正規の簿記の原則に従って記録し、かつ、その記録に基づいて作成された貸借対照表、損益計算書等を添付して確定申告書を期限内に提出している場合→55万円(措法25の2③⑤⑥)
次に掲げる要件のいずれかを満たす場合の青色申告特別控除額は、55万円に代えて65万円とする(措法25の2④)。
イ その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に定めるところにより「電磁的記録の備付け及び保存」又は「電磁的記録の備付け及びその電磁的記録の電子計算機出力マイクロフィルムによる保存」を行っていること。
ロ その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表、損益計算書等の提出を、その提出期限までに電子情報処理組織(e-Tax)を使用して行うこと。
《問 59》
①総所得金額
事業所得の金額(あ)+給与所得の金額(い)
給与所得控除額=1,600,000×40%-10万円=540,000円<550,000円
∴550,000円
給与所得の金額(い)=1,600,000円-550,000円=1,050,000円
(あ)(問57より)13,030,000 円+(い)1,050,000円=14,080,000円
②雑損控除
次の(1)と(2)のうちいずれか多い方の金額。
(1)(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%
(2)(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円
No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
よくある誤答では、
雑損控除額=(損害額+災害関連支出ー保険金)ー総所得金額×10%
4,500,000+1,400,000ー2,000,000)ー(14,080,000×10%)=3,900,000ー1,408,000
=2,492,000円
となっているが、
正しくは、
雑損控除額=(損害額+災害関連支出ー保険金)ー総所得金額等×10%
4,500,000+1,400,000ー2,000,000)ー(2,088,000×10%)=3,900,000ー2,088,000
=1,812,000円
となる。
ちなみに、(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円は、本問ではマイナスになってしまうので選択不可。
本問において、総所得金額等とは総所得金額に、退職所得金額を加算した金額。←重要ポイント!!
(参考)所得税法では、所得税の課税標準を「総所得金額」、「退職所得金額」及び「山林所得金 額」の三本立てとしている(所法22①)。しかし、特定の所得については、租税特別措置法の規定により分離して課税することになっている。
総所得金額は、次の算式で求める(所法22②)
①利子所得の金額 ②配当所得の金額 ③不動産所得の金額 ④事業所得の金額 ⑤給与所得の金額
⑥雑所得の金額 ⑦短期譲渡所得の金額 (A)①~⑦の合計額 (所法22②一)
⑧長期譲渡所得の金額 ⑨一時所得の金額 (B) ⑧⑨の合計額の1/2 (所法22②二)
総所得金額 (A+B)
課税総所得金額
(総所得金額)14,080,000円ー(所得控除合計額)3,600,000=10,480,000円
③基礎控除 480,000円
④所得税額
10,480,000円×33%ー1,536,000円=1,922,400円
差引所得税額(基準所得税額)
1,922,400円ー(税額控除) 102,400円=1,820,000円
⑤復興特別所得税額
1,820,000円×2.1%=38,220円
所得税及び復興特別所得税の額
1,820,000円+38,220円=1,858,220円
所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額
114,360円(設問)
⑥所得税及び復興特別所得税の申告納税額
1,858,220円ー114,360円=1,743,860円
1,743,800(円)※100円未満切捨て
学びのテーマ | 要点 |
① 届出と評価・償却方法 | 届出がないと法定方法が強制適用(自由選択不可) |
② 少額資産の扱い | 10万円未満は一括経費処理、償却しない |
③ 青色申告特別控除 | 手続きと申告形式が控除額を左右する |
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