今回のテーマは、「所得税の雑損控除」である。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<基礎編>(2026年1月25日実施)《問28》
《問28》 居住者に係る所得税の雑損控除に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。なお、各選択肢において、ほかに必要とされる要件等はすべて満たしているものとする。
1) 父が相続により取得した祖父の自宅の建物を、父と生計を一にしていない子が使用貸借により借り受けて居住している場合に、その建物について災害によって一定額以上の損失が生じたときは、父は、確定申告をすることにより、その損失に係る雑損控除の適用を受けることができる。
2) 個人事業主である納税者が所有する棚卸資産について災害によって一定額以上の損失が生じた場合、当該納税者は、確定申告をすることにより、その損失に係る雑損控除の適用を受けることができる。
3) 会社員である納税者が所有する時価25万円の腕時計が詐欺によってだまし取られ、返還されない場合、当該納税者は、確定申告をすることにより、その損失に係る雑損控除の適用を受けることができる。
4) 青色申告者が雑損控除の適用を受け、その控除額がその年分の総所得金額等から控除しきれない場合、控除しきれない額を前年分の所得に繰り戻して、前年分の所得税の還付を請求することができる。
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正解は 1 です。
【前提知識】
雑損控除
それでは、各肢を検討していこう。
1 正しい。
所得税の雑損控除において、災害等による損失が控除の対象となるためには、その資産が「自己」または「自己と生計を一にする配偶者やその他の親族」の所有である必要がある。
さらに、その資産の「利用者」についても以下の通り規定されている。
雑損控除の適用要件(資産の要件)
雑損控除の対象となる資産は、以下の2つの条件を両方満たす必要がある。
- 所有者: 納税者本人、または納税者と生計を一にする親族(その年の総所得金額等が48万円以下の方に限る)が所有していること。
- 用途: 生活に通常必要な資産(住宅、家具、衣類など)であること。
今回のケースのポイント
このケースで重要なのは、「誰が住んでいるか」ではなく「誰が所有し、何の目的で使われているか」である。
- 所有者: 父親本人が相続で取得したものであり、条件(1)を満たしている。
- 用途: 子に「使用貸借(無償で貸し出すこと)」で住まわせている場合、その建物は不動産貸付業のような「事業用」ではなく、親族の居住用という「生活に通常必要な資産」の範囲内に含まれると解釈される。
したがって、たとえ別居して生計を異にしている子が住んでいたとしても、所有者である父親にとっては「生活に通常必要な資産」に該当するため、父親が自身の確定申告で雑損控除を受けることができる。
2 誤り。
所得税において、棚卸資産(商品や製品など)や事業用固定資産に生じた災害損失は、「雑損控除」の対象にはならない。
雑損控除は、あくまで「生活に通常必要な資産」に生じた損失を救済するための制度である。事業に関連する資産の損失については、別の枠組みで処理される。
3 誤り。
雑損控除の対象となる「原因」は限定されており、詐欺や横領による損失は含まれないのがポイント。
雑損控除を受けられるのは、以下のいずれかによって損害を受けた場合に限られる。
- 震災(地震、噴火など)
- 風水害(台風、豪雨、洪水など)
- 火災(火事、爆発など)
- 落雷、その他の自然現象による異変
- 盗難、横領
詐欺が「誤り」となる理由
表向きは「盗難」と似ているが、税務上の扱いは明確に分かれている。
- 盗難(対象になる): 自分の意思に反して、こっそり、または無理やり盗まれること。
- 詐欺(対象にならない): 相手に騙された結果、自分の意思で(形式上は納得して)財物を渡したり、契約したりすること。
補足:資産の価値
今回の腕時計は「時価25万円」とされている。 雑損控除の対象となる「生活に通常必要な資産」のうち、書画、骨董、貴金属等で1個(1組)の価額が30万円を超えるものは、贅沢品とみなされ、そもそも雑損控除の対象にならない。 今回のケースは25万円なので、もしこれが「盗難」であれば控除の対象になった。
4 誤り。
繰戻還付ではなく「繰越控除」
雑損控除の額がその年の所得金額を上回り、控除しきれない金額(雑損失の金額)がある場合、その残った金額は翌年以降3年間にわたって繰り越して、各年の所得金額から控除することができる。
これを「雑損失の繰越控除」と呼ぶ。
誤りのポイント:繰戻還付との混同
試験でよくある「ひっかけ」のポイントは以下の2点である。
- 繰戻還付はできない: 「前年分の所得にさかのぼって税金を返してもらう(繰戻還付)」という仕組みは、雑損控除には存在しない。あくまで「未来(翌年以降)」に向かって控除する制度である。
- 青色・白色を問わない: 純損失の繰越控除(事業の赤字など)は原則として青色申告が条件ですが、この雑損失の繰越控除については、白色申告者であっても適用を受けることができる。
(解法のポイント)
「雑損控除」は所得控除の中でも非常に特殊なルール(詐欺はダメ、白色でも3年繰り越せる、など)が多い項目である。この機会に知識の整理をしておこう。


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