今回のテーマは、「老齢基礎年金・老齢厚生年金」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年5月26日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2024年5月26日実施)【第1問】
【第1問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問51》~《問53》)に答えなさい。
《設 例》
X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(59歳)は、妻Bさん(56歳)と母Cさん(83歳)との3人暮らしである。X社は、満60歳の定年制を採用しているが、継続雇用制度を利用した場合、最長で65歳まで勤務することができる。Aさんは、X社の継続雇用制度を利用して65歳まで同社に勤務するつもりであるが、65歳でX社を退職したあとに再就職するかどうかは、まだ決めていない。
また、最近、要介護状態にある母Cさんの体調が思わしくなく、主に介護をする妻Bさんの負担が増えていることから、介護のために休みを取得したいと考えている。
そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんにアドバイスを求めることにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。
〈Aさんの家族に関する資料〉
(1) Aさん(本人)
・1965年4月28日生まれ
・公的年金の加入歴
1984年4月から1990年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
1990年4月から2000年3月まで国民年金の第1号被保険者である。1990年4月
から1991年3月までは申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納は
していない)が、1991年4月から2000年3月までは保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
2000年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
※過去に厚生年金基金の加入期間はない。
・全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
・2000年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
(2) Bさん(妻)
・1967年11月10日生まれ
・公的年金の加入歴
1986年4月から2020年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
2020年4月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。
(3) Cさん(母)
・1940年12月6日生まれ
・収入は公的年金(老齢基礎年金および老齢厚生年金)のみである。
※妻Bさんおよび母Cさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
※Aさんおよび妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問51》 Mさんは、Aさんに対して、Aさんが定年後もX社の継続雇用制度を利用して雇用保険の一般被保険者として同社に勤務し続け、65歳で退職した場合の雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金および高年齢求職者給付金等について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈高年齢雇用継続基本給付金〉
Ⅰ 「 高年齢雇用継続基本給付金は、算定基礎期間に相当する期間が( ① )年以上あること、60歳以後の各月(支給対象月)に支払われた賃金額(みなし賃金を含む)が60歳到達時の賃金月額の75%相当額を下回ること等の要件を満たした場合に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金の額は、支給対象月ごとに、その月に支払われた賃金額の低下率に応じて一定の方法により算定されます。2020年に改正された雇用保険法により、2025年4月1日以後に60歳となる受給者については、給付金の額は最高で賃金額の( ② )%相当額となります。
なお、月の初日から末日まで引き続いて介護休業給付金の支給を受けることができる休業をした月は、高年齢雇用継続基本給付金は支給されませんのでご注意ください」
〈高年齢求職者給付金等〉
Ⅱ 「Aさんが65歳到達後にX社を退職して再就職を希望する場合、Aさんは、離職の日の翌日から( ③ )年を経過する日までに公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしたうえ、失業していることについての認定を受けることで、高年齢求職者給付金の支給を受けることができます。高年齢求職者給付金は一時金で支給され、その額は、算定基礎期間が1年以上ある場合、原則として、基本手当日額に( ④ )日を乗じて得た額となります。
Aさんが65歳到達後に雇用保険の適用事業所に再就職し、1週間の所定労働時間が□□□時間以上かつ( ⑤ )日以上の雇用見込み等の要件を満たす場合は、雇用保険の高年齢被保険者となります。労働時間の要件を満たさない場合であっても、Aさんが65歳到達後に複数の雇用保険の適用事業所に勤務し、そのうち2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が( ⑥ )時間以上□□□時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が□□□時間以上であって、2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが( ⑤ )日以上である場合は、Aさんが厚生労働大臣に申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の高年齢被保険者となることができます」
《問52》 Mさんは、Aさんに対して、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律における介護休暇・介護休業および雇用保険の介護休業給付金について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑤に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈介護休暇・介護休業〉
Ⅰ 「介護休暇とは、要介護状態にある配偶者、父母、子等の対象家族の介護や世話を行う労働者に対し、年次有給休暇とは別に与えられる休暇です。要介護状態にある対象家族の介護や世話を行う労働者は、事業主に申し出ることにより、1年度において( ① )日(当該申出に係る対象家族が2人以上の場合は、□□□日)を限度として、介護休暇を取得することができます。介護休暇は、原則として、1日単位または時間単位で取得することができます。なお、要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により( ② )週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態とされています。
介護休業とは、事業主に申し出ることにより、要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業をいい、対象家族1人につき3回まで介護休業の申出をすることができます。なお、対象家族1人について、介護休業をした日数の合計が( ③ )日に達している場合は、その対象家族について介護休業の申出をすることはできません」
〈介護休業給付金〉
Ⅱ 「介護休業給付金は、同一の対象家族について介護休業を分割して取得する場合、介護休業を開始した日から通算して( ③ )日を限度に3回までに限り支給されます。なお、介護休業給付金は、各支給単位期間中に、公共職業安定所長が就業をしていると認める日数が( ④ )日以下でなければ、その支給単位期間については支給対象となりません。
介護休業給付金の額は、介護休業期間中に事業主から賃金の支払がない場合、各支給単位期間当たり『休業開始時賃金日額×支給日数×67%』の算式で算出されます。休業開始時賃金日額には、上限額および下限額が設けられており、この額は毎年( ⑤ )月1日に改定されます」
《問53》 Aさんが、定年後もX社の継続雇用制度を利用して厚生年金保険の被保険者として同社に勤務し、65歳で退職して再就職しない場合、Aさんが原則として65歳から受給することができる公的年金の老齢給付について、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、年金額の端数処理は、円未満を四五入すること。
なお、計算にあたっては、《設例》の〈Aさんの家族に関する資料〉および下記の〈条件〉に基づき、年金額は、2023年度価額に基づいて計算するものとする。また、妻Bさんは、公的年金の老齢給付を65歳から受給するものとする。
① 老齢基礎年金の年金額はいくらか。
② 老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 108月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 324月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
(65歳到達時点、2023年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 22万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 45万円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 経過的加算額

(5) 加給年金額
39万7,500円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
《問 51》
〈答〉 ① 5(年) ② 10(%) ③ 1(年) ④ 50(日)⑤ 31(日) ⑥ 5(時間)
《問 52》
〈答〉 ① 5(日) ② 2(週間) ③ 93(日) ④ 10(日)⑤ 8(月)
《問 53》
〈答〉 ① 781,750(円) ② 1,485,494(円)
《問51》
〈高年齢雇用継続基本給付金〉
Ⅰ 「 高年齢雇用継続基本給付金は、算定基礎期間に相当する期間が( ① 5)年以上あること、60歳以後の各月(支給対象月)に支払われた賃金額(みなし賃金を含む)が60歳到達時の賃金月額の75%相当額を下回ること等の要件を満たした場合に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金の額は、支給対象月ごとに、その月に支払われた賃金額の低下率に応じて一定の方法により算定されます。2020年に改正された雇用保険法により、2025年4月1日以後に60歳となる受給者については、給付金の額は最高で賃金額の( ② 10)%相当額となります。なお、月の初日から末日まで引き続いて介護休業給付金の支給を受けることができる休業をした月は、高年齢雇用継続基本給付金は支給されませんのでご注意ください」
〈高年齢求職者給付金等〉
Ⅱ 「Aさんが65歳到達後にX社を退職して再就職を希望する場合、Aさんは、離職の日の翌日から( ③1 )年を経過する日までに公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしたうえ、失業していることについての認定を受けることで、高年齢求職者給付金の支給を受けることができます。高年齢求職者給付金は一時金で支給され、その額は、算定基礎期間が1年以上ある場合、原則として、基本手当日額に( ④ 50)日を乗じて得た額となります。
Aさんが65歳到達後に雇用保険の適用事業所に再就職し、1週間の所定労働時間が□□□時間以上かつ( ⑤31 )日以上の雇用見込み等の要件を満たす場合は、雇用保険の高年齢被保険者となります。労働時間の要件を満たさない場合であっても、Aさんが65歳到達後に複数の雇用保険の適用事業所に勤務し、そのうち2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が( ⑥5 )時間以上□□□時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が□□□時間以上であって、2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが( ⑤ )日以上である場合は、Aさんが厚生労働大臣に申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の高年齢被保険者となることができます」
空欄 | 正解 | 解説 |
① | 5(年) | 高年齢雇用継続基本給付金の算定基礎期間は「5年以上」が要件である。 |
② | 10(%) | 2025年4月以降に60歳となる人は、給付率の上限が「10%」に引き下げられた。 |
③ | 1(年) | 高年齢求職者給付金の申請期限は「離職日の翌日から1年以内」である。 |
④ | 50(日) | 雇用保険の被保険者期間が1年以上ある場合、支給額は「基本手当日額 × 50日分」である。 |
⑤ | 31(日) | 雇用保険の適用には「31日以上の雇用見込み」が必要である。 |
⑥ | 5(時間) | 特例的に高年齢被保険者となるには、1事業所で「週5時間以上」の労働が必要である。 |
マルチジョブホルダー制度とは
従来の雇用保険制度は、主たる事業所での労働条件が1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用される。
これに対して、雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度である。
<適用要件>
・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
・2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
なお、□□□に入るのは「20(時間)」である。
《問52》
〈介護休暇・介護休業〉
Ⅰ 「介護休暇とは、要介護状態にある配偶者、父母、子等の対象家族の介護や世話を行う労働者に対し、年次有給休暇とは別に与えられる休暇です。要介護状態にある対象家族の介護や世話を行う労働者は、事業主に申し出ることにより、1年度において( ① 5)日(当該申出に係る対象家族が2人以上の場合は、□□□日)を限度として、介護休暇を取得することができます。介護休暇は、原則として、1日単位または時間単位で取得することができます。なお、要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により( ② 2)週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態とされています。
介護休業とは、事業主に申し出ることにより、要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業をいい、対象家族1人につき3回まで介護休業の申出をすることができます。なお、対象家族1人について、介護休業をした日数の合計が( ③ 93日)に達している場合は、その対象家族について介護休業の申出をすることはできません」
〈介護休業給付金〉
Ⅱ 「介護休業給付金は、同一の対象家族について介護休業を分割して取得する場合、介護休業を開始した日から通算して( ③93 )日を限度に3回までに限り支給されます。なお、介護休業給付金は、各支給単位期間中に、公共職業安定所長が就業をしていると認める日数が( ④10 )日以下でなければ、その支給単位期間については支給対象となりません。
介護休業給付金の額は、介護休業期間中に事業主から賃金の支払がない場合、各支給単位期間当たり『休業開始時賃金日額×支給日数×67%』の算式で算出されます。休業開始時賃金日額には、上限額および下限額が設けられており、この額は毎年( ⑤8 )月1日に改定されます」
以下に、介護休暇・介護休業に関する空欄①~⑤の数値について、制度の背景・根拠・実務上のポイントを含めて解説しよう。
①5日(対象家族が1人の場合)
「介護休暇」は、要介護状態にある家族の介護や世話を行うために取得できる休暇である。
対象家族が1人の場合、1年度につき最大5日間取得可能である。
対象家族が2人以上の場合は、最大10日間まで取得可能である。
この休暇は、年次有給休暇とは別枠であり、無給であることが一般的である(ただし、企業によっては有給扱いの場合もある)。
取得単位は、1日単位または時間単位で柔軟に取得可能である。
②2週間
「要介護状態」の定義は、介護休暇・介護休業の対象となるかどうかを判断する基準である。
具体的には、負傷・疾病・障害などにより、2週間以上の期間にわたり常時介護が必要な状態とされている。
この「2週間以上」という基準は、一時的な看病や短期的な世話では対象外であることを示している。 医師の診断書などで「常時介護が必要」とされることが、申請時の根拠になる。
③93日
「介護休業」は、対象家族1人につき通算93日まで取得可能である。
この93日間は、最大3回まで分割して取得することができる。
例えば、1回目に30日、2回目に30日、3回目に33日など、状況に応じて分割取得が可能である。ただし、対象家族1人につき93日を超える申出は不可である。
介護休業中は、雇用保険から「介護休業給付金」が支給される可能性がある(後述)。
④10日
介護休業給付金」の支給要件の一つに、支給単位期間中の就業日数が10日以下であることがある。支給単位期間は、原則として1か月単位で設定される。
この期間中に、実際に働いた日数が10日を超えると支給対象外となるため、注意が必要である。
つまり、休業の実態があることが給付金支給の前提である。
⑤8月
「休業開始時賃金日額」の上限・下限額は、毎年8月1日に改定される。
この金額は、介護休業給付金の算定に用いられるため、給付額に直接影響する。
改定は、厚生労働省が毎年公表しており、雇用保険制度の他の給付(育児休業給付金など)にも同様の改定日が適用される。
なお、□□□は10(日)である。
(参考)
通院の付添いなどで短時間の休みが必要な時は、「介護休暇」を活用しましょう。
Q&A~介護休業給付~
《問53》
①老齢基礎年金の年金額
2023年度(2023年4月~2024年3月)に65歳から支給される国民年金(老齢基礎年金)の年金額が、67歳以下では月額66,250円である。
66,250×12月=795,000円
1990年4月から1991年3月までは申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納はしていない)
↓
$\frac{1}{3}$は年金額に反映される。逆にいえば、12月×$\frac{2}{3}$=8月は反映しない。
795,000円×$\frac{(480月-8月)}{480月}$=781,749.99円
781,750(円)(円未満を四捨五入)
※480月は40年(加入可能年数)×12月で計算している。
(筆者注)平成21(2009年)年3月分までは3分の1であったが、現在は2分の1である。
Aさんの免除期間は、平成21(2009年)年3月以前なので3分の1となる。
②老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)
厚生年金の加入期間108月+324月=432月
220,000円×$\frac{7.125}{1,000}$×108月+450,000円×$\frac{5.481}{1,000}$×324月=169,290+799,129.8=968,419.8=968,420①(円未満を四捨五入)
1,657円×432月-795,000円×$\frac{360}{480}$
=715,824-596,250=119,574円②
Aさん(本人)
・1965年4月28日生まれ
Bさん(妻)
・1967年11月10日生まれ
Aさんは1985年4月に20歳になっている。
したがって、1984年4月から1985年3月までは20歳未満となる。
厚生年金の加入期間108月+324月=432月だが、
20歳未満の1年間と60歳から65歳までの5年間を差し引く
432月-6年×12月=360月
なお、Aさんが65歳のときBさんは62歳である。
したがって、加給年金は支給される。39万7,500円③
①+②+③=1,485,494円
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