今回のテーマは、「課税長期譲渡所得金額・建ぺい率・容積率」である。
それでは、「ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年1月26日実施)」で出題された過去問にチャレンジしてみよう。
ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級 学科試験<応用編>(2025年1月26日実施)【第4問】
【第4問】 次の設例に基づいて、下記の各問(《問60》~《問62》)に答えなさい。
《設 例》
Aさん(50歳)は、4年前に父親から相続により取得し、営業を継続していた貸駐
車場の用地(500㎡)を2025年中に売却するとともに、その売却資金により甲土地(400㎡)を取得し、甲土地上に賃貸マンションを建築して賃貸事業を開始する予定である。
なお、Aさんは、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受ける予定である。
Aさんが購入する予定の甲土地の概要は、以下のとおりである。

(注)
・甲土地は400㎡の長方形の土地である。
・幅員16mの県道は建築基準法第52条第9項の特定道路であり、特定道路から甲土地までの延長距離は63mである。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
《問60》 建築基準法の規定および「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」に関する以下の文章の空欄①~⑦に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
〈建築基準法の規定〉
Ⅰ 「建築基準法では、都市計画区域と準都市計画区域内において、用途地域等に応じて、建築物の高さの制限を定めています。建築物の各部分の高さの制限には、道路斜線制限、□□□斜線制限および( ① )斜線制限がありますが、甲土地の所在する近隣商業地域内の建築物には、( ① )斜線制限の適用はありません。なお、( ② )率により計算した採光、通風等が各斜線制限により高さが制限された場合と同程度以上である建築物を建築する場合、原則として、各斜線制限は適用されません。また、建築基準法では、これらの制限のほかに日影による中高層の建築物の高さの制限(日影規制)があり、日影規制の対象区域である近隣商業地域内におい
ては、原則として、高さが( ③ )mを超える建築物が規制の対象となります」
〈特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例〉
Ⅱ 「『特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例』(以下、『本特例』という)は、個人が事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に特定の地域内にある土地建物等の特定の資産(買換資産)を取得し、その取得の日から( ④ )年以内にその買換資産を事業の用に供したときは、所定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができる特例です。
譲渡資産および買換資産がいずれも土地である場合、買い換えた土地の面積が譲渡した土地の面積の( ⑤ )倍を超えるときは、原則として、その超える部分は本特例の対象となりません。また、本特例のうち、いわゆる長期所有資産の買換えの場合、譲渡した土地の所有期間が譲渡した日の属する年の1月1日において10年を超えていなければならず、買い換えた土地の面積が( ⑥ )㎡以上でなければなりません。
なお、同一年内に譲渡資産の譲渡および買換資産の取得をして本特例の適用を受ける場合、原則として、その譲渡の日または取得の日のいずれか早い日を含む三月期間(1月1日から3月31日まで、4月1日から6月30日まで、7月1日から9月30日までおよび10月1日から12月31日までの各期間)の末日の翌日から( ⑦ )カ月以内に、『特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書』を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります」
《問61》 Aさんが、下記の〈条件〉で事業用資産である土地を譲渡し、甲土地を取得して、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、課税の繰延割合は80%であるものとし、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいく
らか。

《問62》 甲土地上に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の
記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。なお、特定道路までの距離による容積率制
限の緩和を考慮すること。
〈特定道路までの距離による容積率制限の緩和に関する計算式〉

正解:
《問60》
① 北側(斜線制限) ② 天空(率) ③ 10(m) ④ 1(年)⑤ 5(倍) ⑥ 300(㎡)
⑦ 2(カ月)
《問61》 ① 21,600,000(円) ② 4,388,000(円)
《問62》 ① 400(㎡) ② 1,584(㎡)
(注)本問は、2025年1月26日に出題されており、出題基準日(法令基準日)は2024年10月1日である。しかし、この解説においては、執筆時点の法令等に基づくものとする。
《問60》
〈建築基準法の規定〉
斜線制限とは
斜線制限は、周囲の建物や道路に対して日照・採光・通風を確保するために建物の高さを制限するルールである。
主に以下の3種類がある。
1. 道路斜線制限(建築基準法56条1項1号)
起点:前面道路の反対側の境界線
斜線の勾配:用途地域に応じて、例えば住居系地域では 1:1.25(水平距離1mに対して高さ1.25m)
制限の範囲:この斜線の内側に建物の各部分が収まるように設計する必要がある。
2. 隣地斜線制限(建築基準法56条1項2号)
隣の敷地との境界線から斜線を引き、建物の高さを制限する。
目的:隣地の採光・通風・日照の確保。
3. 北側斜線制限(建築基準法56条1項3号)
北側の隣地の日照を守るため、真北方向から斜線を引いて高さを制限する。
適用地域:低層・中高層住居専用地域など。
近隣商業地域や商業地域では適用されない。
天空率とは
天空率は、建物の周囲から見上げた空の広がりの割合を数値化したものである。
斜線制限の代わりに天空率を使って設計することで、より自由な建築が可能になる場合がある。
採光や通風が斜線制限と同等以上であると認められれば、斜線制限が緩和される。
(建築基準法56条7項)
日影規制とは
中高層の建物が周囲に影を落とすことを防ぐための規制である。
建物が一定の高さを超えると、日影図を作成して影の長さや時間を検討する必要がある。
近隣商業地域では、高さが10mを超える建物が対象となる。
(建築基準法56条の2)
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(参考)
建築基準法
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〈特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例〉
(ポイント解説)
① 「取得の日から(④)年以内に事業の用に供したとき」
答:1年
買い換えた資産は、取得してから1年以内に事業に使い始める必要がある。これを過ぎると特例の対象外になる。
② 「買い換えた土地の面積が譲渡した土地の面積の(⑤)倍を超えるとき」
答:5倍
買い換えた土地が大きすぎると、事業の継続性がないとみなされるため、譲渡した土地の5倍を超える部分は特例の対象外になる。
③ 「買い換えた土地の面積が(⑥)㎡以上でなければならない」
答:300㎡
解説:長期所有資産の買換え特例では、買い換えた土地が300㎡以上であることが条件。小さすぎると事業用と認められない。
④ 「届出書を提出する期限は、三月期間の末日の翌日から(⑦)カ月以内」
答:2カ月
解説:譲渡または取得があった三月期間(例:1月〜3月)ごとに、その期間の末日の翌日から2カ月以内に届出書を提出する必要がある。
(特例の目的)
この制度は、事業の継続や地域経済の活性化を支援するために設けられている。
資産を売っても、すぐに別の資産を買って事業を続けるなら、税金の支払いを繰り延べにしてあげましょうという考え方。
(参考)
No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例
《問61》
①特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例
(問題の整理)
・譲渡価額:1億円
・買換資産取得価額:9,500万円
・譲渡資産取得費:不明
・譲渡費用:500万円
・課税繰延割合:80%
譲渡資産の譲渡価額 > 買換資産の取得価額の場合
(イ) 譲渡資産の譲渡価額-(買換資産の取得価額×0.8)=収入金額
(ロ)(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(収入金額÷譲渡資産の譲渡価額)=必要経費
(ハ) 収入金額-必要経費=課税される譲渡所得の金額
(イ)1億円-(9,500万円×0.8)=2,400万円
(ロ)(1億円×5%+500万円)×(2,400万円÷1億円)=240万円
(ハ)2,400万円-240万円=2,160万円
必要経費は、取得費(5,000,000円)+譲渡費用(5,000,000円)=10,000,000円 を、収入金額に比例して按分したものとなる。(ロ)
〈答〉 21,600,000(円)
(参考)
(No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例)
(No.3258 取得費が分からないとき)
② 所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
21,600,000 円×15%=3,240,000 円(所得税)
3,240,000 円×2.1%=68,040 円(復興特別所得税)
3,240,000 円+68,040 円=3,308,000 円(100 円未満切捨て)
21,600,000 円×5%=1,080,000 円(住民税)
3,308,000 円+1,080,000 円=4,388,000 円
〈答〉 4,388,000(円)
《問62》
①建蔽率の上限となる建築面積
(チェックポイント)
・セットバックの有無
・緩和要因(防火地域、耐火建築物など)
(問題の整理)
・セットバック部分なし
・近隣商業地域
・指定建蔽率80%
・防火地域
・耐火建築物
「防火地域 × 指定建蔽率80% × 耐火建築物」では、緩和措置によって建ぺい率の制限がなくなる。
(建築基準法第53条第6項第1号)
∴400㎡
〈答〉① 400(㎡)
②容積率の上限となる延べ面積
特定道路までの距離による容積率の緩和に関する計算式
W1= \frac{(12−W2)×(70−L)}{70}
W1:前面道路に加算される数値
W2:前面道路の幅員(m)
L:特定道路までの距離(m)
用途地域:近隣商業地域(定数 0.6)
指定容積率:400%
前面道路幅員(W2):6m
特定道路までの距離(L):63m
W1=\frac{12-6)×(70-63)}{70}=0.6m
(6m+0.6m)×0.6×100%=396%
指定容積率(400%)と計算結果(396%)のいずれか小さい数値を適用するため、396%が適用される。
400㎡×396%=1,584㎡
〈答〉② 1,584(㎡)
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